研究者にQ

フレイルって何?

フレイルの概念・臨床的特徴は?

フレイルは加齢に伴う生理的予備能低下によりストレスに対する脆弱性が高まった状態であり、Frailtyの日本語訳として平成26年に日本老年医学会から提唱されました。生活障害は有さないものの、その前段階であり、適切な介入がなされなければ不良な転機(生活機能の低下、要介護状態、死亡等)に陥りやすい状態であるとされています。逆に、適切な介入がなされれば健常な状態に戻る可能性を有する可逆的な状態でもあります。介護予防や高齢者医療における重要性から、医療従事者のみならず一般住民においてもフレイルの認知度は近年向上してきていますが、評価基準やその概念は十分に統一されているとは言い難い状況です。主なモデルとしてFriedらの診断基準に代表される表現型から評価するモデル(Phenotype Model)および能力障害や症候、疾患等の累積を評価する欠損累積モデル(Deficit Accumulation Model)があります。

【参考文献】
・フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント https://jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf
・Fried LP, Tangen CM, Walston J, et al. Frailty in Older Adults: Evidence for a Phenotype. The Journals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciences. 2001;56(3):M146-M157. doi:10.1093/gerona/56.3.M146

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 予防医学・疫学部門 千葉一平先生

身体的フレイルの原因・要因は?

フレイルは加齢に伴う心身の変化と社会的・環境的な要因が組み合わされることによって起こるとされています。加齢に伴う心身の変化には、身体活動の低下や社会的交流の減少、身体機能の低下、歩行速度の低下、筋力の低下、認知機能の低下、易疲労性、活力の低下、管理が必要な慢性疾患(呼吸器疾患、心血管疾患、抑うつ、貧血など)の存在、体重減少、低栄養などが含まれ、身体的フレイルの原因となります。

身体的フレイルの要因としては、①歩行速度の低下、②易疲労性、③身体活動の減少、④体重減少、⑤筋力(筋肉量)の低下が挙げられ、これら5つの徴候は互いに関連し合ってフレイルが進行していきます。例えば低栄養・体重減少から、筋肉量が減少するサルコペニアが中核となり、筋力や持久力の低下、歩行速度・身体活動の低下を引き起こすことで日常生活動作能力が低下し、要介護状態へ至ることが問題となっています。

【参考文献】
・荒井秀典:フレイルの意義.日本老年医学会雑誌.2014;51:497-501.
・Xue QL, Bandeen-Roche K,  et al.: Initial manifestations of frailty criteria and the development of frailty phenotype in the Women’s Health and Aging Study II . J Gerontol A Biol Sci Med Sci .2008;63(9): 984-990.

獨協医科大学病院 外山洋平先生

フレイルの疫学的特徴は?

フレイルの有症率は、調査で用いられたフレイルの定義や評価基準、対象者の選定、国・地域等により異なります。我が国の地域在住高齢者に関しては、Friedらの基準にてフレイルの有症率を調査した先行研究のメタ分析にて、フレイルは7.4%(95%信頼区間(CI):6.1-9.0%)、プレフレイルは48.1%(95%CI:41.6-54.8%)でした。加齢に伴い有症率は増加(85歳以上の35.1%がフレイルに該当)し、性差については男性(7.6%)に比べて女性(8.1%)の方がやや高かったと報告されています。また、フレイルの推移に着目した世界の前向き研究のメタ分析(平均追跡期間3.9年)では、ベースライン時のフレイル状態からの悪化が29.1%(95%CI:25.9-32.5%)にあった一方で、13.7%(95%CI:11.7-15.8%)は改善方向に推移しており、フレイル固有の動的な自然史があります。

【参考文献】
・Kojima G, Iliffe S, Taniguchi Y, Shimada H, Rakugi H, Walters K: Prevalence of frailty in Japan: A systematic review and meta-analysis. J Epidemiol 27: 347-353, 2017.
・Kojima G, Taniguchi Y, Iliffe S, Jivraj S, Walters K: Transitions between frailty states among community-dwelling older people: a systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev 50: 81-88, 2019.

北里大学医療衛生学部 安藤雅峻先生

フレイルの診断・評価方法は?

本邦ではフレイルの診断・評価方法にてJ-CHS基準がよく用いられています。これは「体重減少:6ヶ月で2kg以上の(意図しない)体重減少」、「筋力低下:握力 男性<28kg、女性<18kg」、「疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」、「歩行速度:通常歩行速度<1.0m/秒」、「身体活動:週に1回も“軽い運動・体操” および “定期的な運動・スポーツ”を実施していない」の5項目で評価されます。このうち3項目以上に該当した場合はフレイルと判定され、1〜2項目の場合はプレフレイルと判定されます。また、介護予防事業などでも活用されている基本チェックリストを用いた判定方法もあります。こちらは25項目のうち、4〜7点をプレフレイル、8点以上をフレイルと判定します。さらに高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施にて行われるフレイル健診では、身体的フレイルにとどまらず、精神心理や社会的な要因も考慮した15項目の質問票が用いられています(表)。

表. 後期高齢者の質問票(厚生労働省資料より作成)

株式会社LocoX 埼玉医科大学/日本保健医療大学非常勤講師 丸谷康平先生

フレイルの治療・介入方法は?

今回は、身体的フレイルの治療・介入方法に特化して紹介します。しかし、効果的な治療・介入を図るためには、身体的フレイルのみに着目した縦割りのプログラムでなく、精神・心理的フレイルや社会的フレイルへの対応も含んだ複合的なプログラムが有効であることも強調しておきます。

身体的フレイルのリスクを高める方の特徴として「高齢であること」、「下肢筋力が低下していること」などが分かっています。このような方に運動を促すためには、軽めの運動を普段の生活に少しずつ追加することがポイントです。このため、理学療法士には、対象者の生活習慣に着目したうえで、活動量の維持・向上を図るようなプロデュース力が求められます。なお、専門職として、運動の強度や頻度だけでなく、安全管理についての言及も忘れないようにしてください(図を参照)。また、仮に外出の予定がなくとも規則正しい生活を心がけることをアシストすることも重要です。例えば、朝起きたら身だしなみを整えることが挙げられます。顔を洗う、歯を磨く、服を着替えるなどの動作は、四肢・体幹の運動や、垂直方向への重心移動など、身体的フレイルの予防に寄与する要素が含まれるからです。

 

図.運動プログラム(安全管理を含む)の一例

【参考文献】
・Shinohara T, Saida K, et al.:Transition to frailty in older Japanese people during the coronavirus disease 2019 pandemic: a prospective cohort study. Archives of gerontology and geriatrics.2022; 98, 104562.
・村山明彦:地域における転倒予防チーム 「多角的介入」プログラムとCOVID-19感染拡大後の取り組み.月刊ナーシング.2022;42 (9),48-51.

群馬医療福祉大学 村山明彦先生

フレイルの予防方法は? ―身体的フレイルを中心に―

フレイルの発症・進行には生活習慣や疾患、社会的要因、炎症といった生物学的要因など様々な因子が関係しています。身体的フレイルの予防に対して、生活習慣のなかでも運動不足、タンパク質摂取量低下に着目し、それらの改善を目指した介入がこれまで行われてきました。
運動に関しては、単種目の運動より、筋力増強運動、有酸素運動、バランストレーニング等の多因子運動プログラムが推奨されています。さらに、運動と栄養を組み合わせた介入は、運動単独の介入よりもフレイルの改善に効果的であったことが報告されています。運動に対するアプローチを行う上では、運動を継続する仕組みが重要です。現在、指導者がいる運動教室だけでなく、高齢者が自ら運営する自主グループやサロンでの運動が様々な自治体で行われています。
一方、フレイル予防に必要な運動時間、強度、頻度、身体活動量については一致した見解が得られていないため、今後の研究が期待されます。

【参考文献】
・Hoogendijk EO, Afilalo J, Ensrud KE, Kowal P, Onder G, Fried LP: Frailty: implications for clinical practice and public health. Lancet 394: 1365-1375, 2019.
・Dedeyne L, Deschodt M, Verschueren S, Tournoy J, Gielen E: Effects of multi-domain interventions in (pre)frail elderly on frailty, functional, and cognitive status: a systematic review. Clin Interv Aging 12: 873-896, 2017.

医薬基盤・健康・栄養研究所 安岡実佳子先生

フレイルの予後・転帰は?

身体的フレイルの予後・転帰として、転倒や骨折だけでなく、認知症や生活習慣病、要介護や死亡といった負のアウトカムとの関連性が指摘されています。
地域在住高齢者を対象としたコホート研究の系統的レビューでは、フレイル高齢者では死亡リスクは1.8~2.3倍、入院1.2~1.8倍、施設入所1.7倍、ADL障害1.6~2.0倍、身体的制限1.5~2.6倍、骨折・転倒1.2~2.8倍とされています。
わが国における研究では、2年間における要支援・要介護の新規発生率は、健常な高齢者と比較してプレフレイル高齢者では2.5倍、フレイル高齢者では4.7倍であったとされています。

このように身体的フレイルは、様々な負のアウトカムとの関連性が示されていますが、フレイルは可逆性を有することから、適切な運動や栄養などの介入によって身体機能やADLの向上、さらにはフレイルから脱却できる可能性があります。そのため要介護になる前段階であるプレフレイル・フレイルの状態から予防的な理学療法を行っていく必要があると考えられます。

【参考文献】
・Vermeiren S, Vella-Azzopardi R, Beckwée D, Habbig AK, Scafoglieri A, Jansen B, Bautmans I; Gerontopole Brussels Study group: Frailty and the Prediction of Negative Health Outcomes: A Meta-Analysis. J Am Med Dir Assoc 17: 1163.e1-1163.e17, 2016
・Makizako H, Shimada H, Doi T, Tsutsumimoto K, Suzuki T: Impact of physical frailty on disability in community-dwelling older adults: a prospective cohort study. BMJ Open 5: e008462, 2015

九州看護福祉大学 看護福祉学部 リハビリテーション学科 谷口善昭先生

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